教皇レオ14世、駐バチカン外交団と新年の挨拶交換
教皇レオ14世は、1月9日、駐バチカン外交団と新年の挨拶を交換された。
同日午前、バチカンの祝福の間で行われたこの伝統的な集いには、各国の大使および組織の代表が一堂に会した。
まず、外交団を代表し、キプロスのジョージ・プーリデス大使が教皇に挨拶を述べた。
これを受け、レオ14世は、教皇登位後初めてとなる年頭の言葉を外交団におくられた。
聖アウグスティヌスの『神の国』と現代
この中で教皇は、聖アウグスティヌスが410年のローマ略奪の後に著した『神の国』に言及。同書は、「人民間のより公正で平和な共存の模索など、社会・政治生活の基本問題に貴重な考察を与えると共に、歴史の誤った解釈や、過度のナショナリズム、政治家の理想の歪曲から生じる、政治生活への重大な危険についても警告している」と話された。
教皇は、「現代の状況は5世紀とは異なるものの、当時と同様、大規模な移住の動向が見られる時代、地政学的なバランスと文化的価値観の大きな再編の時代にあり、いくつかの共通点は依然として重要な意味を持っている」と述べられた。
多国間主義の脆弱さと今日の潮流
教皇は、今日の国際社会における多国間主義の脆弱さを懸念。「対話を促進し、皆の合意形成を目指す外交は、個人や同盟国グループの力による外交に取って代わられようとしている」と述べた。
「戦争の潮流が戻り、軍事的な熱狂が広がりつつある。第二次世界大戦後に確立された、他国の国境を侵すために武力を行使することを国々に禁じた原則は破られた」と教皇は語り、「賜物や善そのものとして待望される平和はもはや追求されず、自らの支配を主張するための条件として、武力を介してそれが追求されている」と話された。
国連の役割
まさにこのような態度が人類を第二次世界大戦の悲劇へと導き、その大戦の灰の中から、昨年10月に80周年を迎えた、国際連合が誕生した経緯を教皇は振り返った。
教皇は、国際人道法の重要性を強調。同法は、「戦争の被害において最低限の人道性を保証することはもとより、国家が負う責任でもある」と話し、「病院や、エネルギー供給網、住宅、日常生活に不可欠な場所の破壊が、国際人道法の重大な侵害を形成していることを見過ごすことはできない」と述べた。
こうしたことから教皇は、紛争調停、開発促進、人権と基本的自由の保護等を支援してきた国連が、地政学的緊張、不平等、気候変動など、複雑な課題に直面している今日の世界において、対話と人道支援を促進し、より公正な未来の構築に貢献する上で重要な役割を果たすことを願われた。
良心の自由、宗教の自由
教皇は、「多国間主義の目的は、人々に出会いと話し合いの場を提供することにある」と述べた。しかし、「今日、言葉の意味はますます流動的になり、言葉が表す概念も曖昧になっている」と指摘。「特定の現実を再び明確に表現する言葉が求められ、そうして初めて、誤解のない真の対話を再開することができる」と語った。
また、教皇は特に今日の状況において、「良心の自由が、民主主義と人権に基づくと宣言されている国家においてさえも不確かになっている」と話し、「良心の自由は、集団的利益と個人の尊厳の間のバランスを安定させるもの」であり、「真に自由な社会は画一性を強制せず、良心の多様性を保護し、権威主義的傾向を防ぎ、社会構造を豊かにする倫理的対話を促進するもの」である、と説かれた。
教皇は、同様に、宗教の自由が制限される危険に言及。最新のデータに基づき、「宗教の自由の侵害が増加し、世界人口の64%がこの権利の深刻な侵害に苦しんでいる」という状況を示しつつ、「キリスト教徒に対する迫害は、今日最も広範囲にわたる人権危機の一つである」と述べた。
こうした中、教皇は、バングラデシュ、サヘル地域、ナイジェリアにおける、宗教的動機も含めた暴力の多数の犠牲者、そして、昨年6月ダマスカスの聖エリヤ教会で発生した深刻なテロ攻撃やモザンビークのカボ・デルガードでのジハード主義者による暴力の犠牲者らに思いを寄せられた。
人間の尊厳の擁護
教皇は、あらゆる人間の譲ることのできない尊厳を擁護する教皇庁の一貫した立場を改めて提示。
国際移住機関の設立75周年を迎えた今年、「違法行為や人身取引に立ち向かうための各国の対処が、移民や難民の尊厳を傷つける口実とならないように」との教皇庁の希望を改めて表明した。
受刑者に対しても同様に配慮を望まれる教皇は、前任教皇フランシスコの聖年を機会とした恩赦の呼びかけに応じた各国政府に深く感謝し、「聖年の精神が司法の適用に永続的かつ構造的な感化をもたらすことを期待」された。
いのちの神聖さ
教皇は、「いのちは育むべきもの、家庭はその責任ある保護者」という深い視点から、「いのちの起源とその発展を否定、搾取する行為の実践を断固として拒絶しなくてはならない」と述べ、そうした行為の一つとして、生まれ来るいのちを中断し、いのちという賜物の受け入れを拒む中絶を挙げられた。
また、教皇は、代理出産について、「妊娠を売買可能なサービスに変えることで、『商品』に矮小化された子どもと、身体と出産のプロセスを搾取された母親の、双方の尊厳を侵害し、家族の本来の絆の仕組みを変質させてしまう」ことを危惧された。
教皇は、困難な状況を生きる病人、高齢者、孤独な人々を前に、「市民社会と国家は、これらの人々の脆弱な状況に具体的に応え、緩和ケアなど、人々の苦しみに対する解決策を提示し、安楽死のような誤った同情の形を奨励することなく、真の連帯の政策を推進する課題を負っている」と話された。
そして、「健全で進歩的な社会は、人間のいのちの神聖さが守られ、積極的にそれを促進する努力が行われる時にのみ可能になる」と説かれた。
人権の危機
このような考察から、教皇は、今日人権をめぐる真の破綻が起こりつつあることを懸念。「表現の自由、良心の自由、宗教の自由、さらにはいのちの権利までもが、いわゆる別の『新たな権利』の名の下に制限され、その結果、人権の提起自体がその力を失い、暴力や抑圧に機会を与えている」と警告された。
教皇は、「こうしたことは、それぞれの権利が自己言及的になり、特に物事の現実、性質、真実とのつながりを失ったときに起こる」と語られた。
ウクライナ、聖地の情勢
「傲慢は現実そのものと他者への共感を曇らせる」と述べた教皇は、あらゆる紛争の根底に傲慢が常に存在するのは偶然ではない、と話された。
このような状況は多くの場所で見受けられる、と教皇は話しつつ、特にウクライナで進行中の戦争に言及。民間の人々に重くのしかかる苦しみ、この劇的な状況を前に、即時停戦と、平和へ導く道を真摯に模索する対話を急務として示す、教皇庁のアピールを新たにされた。
聖地に目を向けた教皇は、10月の停戦の発表後も、人々が依然として深刻な人道危機に見舞われている状況を注視。「教皇庁は、ガザ地区のパレスチナ人に自らの土地における永続的な平和と正義の未来の保証を準備する、あらゆる外交的取り組みと、全パレスチナ国民と全イスラエル国民に対する同様の取り組みに、特別な注意を払っている」と述べ、「特に二国家解決は両国民の正当な願望を満たす制度上の展望であり続ける」と話した。一方で、教皇は、ヨルダン川西岸で、自らの土地で平和に暮らす権利を持つパレスチナの民間人に対する暴力が増加していることに遺憾を示された。
ベネズエラ国民の意思の尊重を
教皇は、カリブ海とアメリカ太平洋沿岸における緊張の悪化を憂慮。「党派的利益の擁護ではなく、国民共通の利益を第一に考え、現状に対する平和的な政治的解決の模索を」と訴えた。
ベネズエラの最近の情勢は特にこうした状況にあると述べた教皇は、「ベネズエラ国民の意志を尊重し、すべての人の人権と市民権の保護、そして安定と調和の未来の構築に尽力するよう」改めて呼びかけられた。そして、昨年10月に列聖されたベネズエラの2人の聖人、ホセ・グレゴリオ・エルナンデスとカルメン・レンディレス修道女の模範に励まされ、「正義、真理、自由、兄弟愛に基づく社会を築き、長年国を苦しめてきた深刻な危機から再び立ち上がるように」と願われた。
教皇は、暴力に見舞われるハイチに国際社会の支援のもと民主的秩序の再構築、暴力の終結、和解と平和の実現に必要な措置を、また数十年にわたり暴力に見舞われているアフリカ大湖地域に公正で永続的な紛争解決を希望され、広大な戦場と化したスーダン、15年前に誕生したばかりの南スーダンの政情不安にも同様の思いを示された。
東アジアにおける緊張
さらに、教皇は、「東アジアにおける緊張の高まりの兆候に言及せざるを得ない」、と述べ、「潜在的な紛争の源となっている論争問題に対し、関係するすべての当事者が、平和的な、対話に基づくアプローチを採ること」を期待された。
深刻な人道上・安全保障上の危機に見舞われ、昨年3月の壊滅的な地震によってさらに深刻な状況に陥っているミャンマー思いを向けられた教皇は、「平和と包摂的な対話の道を勇気をもって選択し、すべての人に公平かつ迅速な人道支援へのアクセスが保証されるよう」改めて訴えられた。
新兵器競争の危険
「戦争は破壊することで満足するが、平和を築くには、継続的で忍耐強い努力と、絶え間ない警戒が必要である」と教皇は強調。「この努力は、核兵器を保有する国はもとより、すべての人々に求められている」と話した。
今年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(START)の重要な継続的対応に注目しながら、教皇は、人工知能(AI)を用い、より高度な新兵器を次々と生み出す競争に陥る危険性に言及。「AIは、自由の保護と人間の責任に重点を置いた規制的枠組みのみならず、適切かつ倫理的な管理を必要とするもの」と述べた。
謙遜な平和を愛する心
教皇は、来年10月に、平和と対話の人、アッシジの聖フランシスコの帰天から800年を迎えることを紹介。「その生涯は、真理に生きる勇気と、天の都に向けられた謙虚な心から平和な世界が築かれるという認識によって輝きを放っている」と話された。
新年を迎えるにあたり、レオ14世は、謙遜な平和を愛する心をすべての人に願われた。
